Through the Gates of Pearl
私的なスピリチュアル探求の記録
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高浜寛(マルグリット・デュラス原作)「愛人(ラマン)」と「真珠」的な体験

高浜寛(たかはまかん、念のため女性作家さん)にはまり、ここ最近(2020年2月~)お気に入り過ぎてほぼすてべての作品を大人買いしてしまいました。その高浜寛さんの最新作、「愛人(ラマン)」(マルグリット・デュラス原作)が、真珠というテーマに関わってくるのでご紹介しますね。

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「愛人(ラマン)」はフランス文学が好きな人ならご存知のマルグリット・デュラスの小説です。映画化もされていますので、そちらの方で知っている方も多いかもしれません。

マルグリット・デュラスの「マルグリット」は、真珠を意味するギリシア語のマルガレーテのフランス語です。マルグリット・デュラスもまた、このブログでファウストのグレートヒェンに絡めて紹介した意味において、実に「真珠」的な作家なんでご紹介しますね。

※ファウストのグレートヒェンの話はこちらの記事に書いています。

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まず、マルグリット・デュラスってどういう人で、「愛人(ラマン)」という小説がどういうものかというと・・・

1914年、フランス領インドシナ(現ベトナム)のサイゴンに生まれる。
法律を学ぶため、1932年にフランスに帰国しパリ南部近郊ヴァンヴに居住。パリ大学で法律・数学を専攻し、政治学のディプロ厶を取得。1939年、ロベール・アンテルムと結婚する。1942年に初めての子供を出産後に失う。
1943年、処女作『あつかましき人々』を発表する。また、この頃、ディオニス・マスコロと知り合う。1950年に発表した、現地で教師をしていたが早くに夫に先立たれた母が、現地の役人にだまされ、海水に浸ってしまう土地を買わされ、それ以後、彼女達一家は貧困を余儀なくされるという一家の苦難と母の悲哀を描いた自伝的小説の『太平洋の防波堤』は、わずかの差でゴンクール賞を逃す。
1984年に発表した、インドシナに住んでいた時に知り合った華僑の青年との初めての性愛体験を描いた自伝的小説『愛人』は、ゴンクール賞を受賞し、世界的ベストセラーとなった。1992年にはフランス・イギリス合作で映画化され、この映画『愛人/ラマン』も原作同様ヨーロッパでヒットした。なお、この作品の姉妹編とも言うべき『北の愛人』は、かつてのデュラスの愛人だった中国人青年の死を聞いて執筆を始めたという。この作品は1991年に発表された。
ペンネームのデュラスは、彼女の父の出身地から取ったもの。

Wikipediaより引用

マルグリット・デュラスと言えば「愛人(ラマン)」というくらい彼女の原点でもあり代表作でもある小説です。

この「愛人(ラマン)」に出てくるフランス人少女(マルグリット・デュラスの少女時代)と裕福な華僑の青年との出会いは、ファウストとグレートヒェンの出会いがそうであってように、最初は単なる誘惑(お金と性愛)から始まったものの、最終的にはお互いに一生かけても消えない運命の愛という形で続いていく・・・という意味で、実に真珠的な体験を描いていると思うのです。

「愛人(ラマン)」の中で少女が口にする娼婦気取りの軽薄で蓮っ葉な台詞も、青年が口にする「売女」などの罵倒も、未来を描けない二人にとってすべて愛の裏返し。

彼女は男に言う、あなたがあたしを愛していないほうがいいと思うわ。たとえあたしを愛していても、いつもいろんな女たちを相手にやっているようにしてほしいの。

なぜかというと、あれこれ言っても、青年と別れてベトナムからフランスに帰国してから少女が2年間貞操を守ったという一節がさらっと書いてあるからです。

こういう、マルグリット・デュラス特有の行きつ戻りつ流れるような文体の中に織り交ぜてある「真意」を丁寧に拾って、高浜寛さんは漫画にしているなあと思いました。

※そういえば今気づいたのですが、辻仁成の「サヨナライツカ」も、主人公の2人が純粋に肉体関係だけの遊び相手として出会ったのに、お互いに一生忘れることができない真実の運命の相手だった、という話でしたね。中山美穂主演で映画化されていて東南アジアのむせかえるような南国のけだるい雰囲気が印象的な映画だったのでふと思い出しました。

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高浜寛の漫画では、主人公二人があまり美化されずに描かれているのがよかったです。むしろ不完全に描かれていて真実味がありました。※目に隈があると書かれていたらちゃんと少女の目には隈があり、貧弱な体と書いてあったらちゃんとガリガリに描いてあった・・・。

映画版では美男美女が主人公でしたが、マルグリット・デュラス自身は「美しすぎる」といって気に入らなかったみたいですが、漫画版の方がよりデュラス自身の見解に寄り添っていそうです。

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ちなみに、高浜寛さんの他の漫画でも、はじめは性愛から始まるけどそれが真実の愛に変わる、みたいなテーマのものがあって、そちらもよかったので是非読んで欲しいです。それが、「四谷区花園町」という漫画。

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なんか、高浜さんの描く漫画の女性の体はすごーくエロくていいんですよね。二次元的なエロさではなくて、むちっとした肌の質感とかどれだけ気持ちよいかが分かるようなエロさで(笑)「四谷区花園町」には何回もセックスシーンが出てくるんですが、やっぱり最後のセックスシーンが一番泣けるしジーンと来ました。

他にも不治の病の夫を持つ長崎の花魁の話を書いている「蝶のみちゆき」もぐっとくる。

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高浜寛さんは日本以上にフランスをはじめとする世界の漫画シーンで有名な作家さんなのですが、その一つの理由が、どうしようもない闇があっても性善説である=人間の可能性を信じているユマニスムの作家だからなんじゃないかと思います。

>>>参考記事:苦しい時、「好きな仕事」が助けてくれる

個人的には、こういうところに、高浜寛さんのフランスっぽさ(フランス文学の系譜)を感じますね。

最近完結したニュクスの角灯(全部で6巻)でも、娼婦になって浪費と結核に堕ちていった元恋人を救おうとする男性・モモの話が出てきて、最終的にこの二人は結婚して子どももできたようなことが描かれていますし、希望の光みたいなものがちゃんとあるのが好き。

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ちなみに高浜寛さんも一度アル中になって立ち直ったご経験があって、そのことを踏まえて書かれた作品もあります。

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高浜さんは天草のご出身ということもあって、熊本や長崎などを舞台にしたお話を描かれていて、そこに外国文化との接点のある日本といった情景がよく出てきます。

ちなみに私、むかーしむかし、当時付き合っていた彼氏の学会についていくために長崎に行って、グラバー園から海の方向を見たとき、ものすごく郷愁を覚えた記憶があります。狭い湾の中をゆっくりと船が進んでいく様子を見ていて、「ああ私これ見たことある」って思ったんですよね・・。

ここ最近、私と同世代の女性の漫画家さんで気に入った方がものすごく多いので、これからも色々ご紹介していきますね。

ABOUT ME
gabriela
1981年生まれ。一児の母(男の子ママ)。ごく個人的なスピリチュアル探求の記録を綴っています。